自らを律する空間の中で生活がしたい」というお言葉をお聞きするとこから始まったD様との家造り。その言葉に、なにかドキドキしながらのスタートでした。土地探しからの家創りでもありましたので、一緒になって探しましたが、運良く、早いタイミングで見つかり、緊張感のあるテーマをもとに、早速設計が始まりました。
「漠然と時間がすぎるのではなく、一瞬一瞬に考えさせられ、多少の不便より、手間がかかるこその喜びと楽しみを味わいたい。」文章にすればするほど、なんともマイノリティーな感覚をお持ちなD様でありました。が、その分、打合せは楽しく出来ました。
ただ、ほとんどが、「お任せします。」でした。私達にとっては、これ以上ないやりがいがありました。自分の考えるD様の暮らしを徹底的に考え、今回は鉄骨造でご提案しました。私達の名古屋スタジオのある鉄骨造のnu bld.についても気に入っていただいていたし、鉄のもつ緊張感が、今回の計画には必要だと感じたからです。
こんな紹介の仕方だと、ちょっと変わったご家族の住まわれるための家創りだと思われそうですが、実際はそんなこともなく、ひたすら優しい奥さんと、仲の良い 男の子三兄弟、ストイックなご主人の五人家族。皆の暮らし方や、これからの生活を考えると、実は自然な流れなのかもしれません。鉄を錆びさせたキッチンの 側面壁や、テレビのないリビング、室内の植物や、縁側的に楽しめる庭前のスペース、生活動線を短縮した水回り。その一つ一つが、今となっては、いかにもD様らしいと思います。
今 回は本棚に配置する本、流木などを含むインテリア小物類、オーディオ、当然家具、照明、植栽など、かなりひっくるめたコーディネートの依頼がありましたので、これまた楽しくできました
植栽は一緒に植木屋さんに見に行って、樹形や葉のカタチなどで、みんなで選びましたが、遠足のような楽しさがありました。それから、アンティークショップや古本屋などで出会ったモノたちを、完成した空間にレイアウトしているときはまさに至福の時間といえるものでした。
暮らし にまつわる全てをお任せいただいたD様には、大きな感謝とともに、全力の私達をご提供できた誇りも感じます。
時間とともに、ますます味わいを増し、と同時に愛着も増すような住まいになったと思います。これからより、このストイックな空間を、D様のご家族の笑顔で一杯にしていただき、お過ごしいただけたらと思います。
設計監理: アイシーエー・アソシエィツ一級建築士事務所(名古屋) 撮影: 加納準