迫子の家(renovation) 三重県志摩市

  • 三重県志摩市
  • 構造::木造アーチ工法
  • 用途:別荘(貸別荘)
  • 敷地面積: 426㎡ (128.8坪)
  • 建築面積::39.79㎡ (12.04坪)
  • 延床面積::59.94㎡ (18.13坪)
  • 竣工::令和3年10月

今から49年前の昭和47年(西暦1972年)造られた海沿いのこの別荘を初めて見た時に感じたことをお話します。

まず「面白い構造体の木造住宅」である事。そして「痛みが多く工事が大変」という大きく分けてこの二つでした。

「面白い構造体」という理由は、この建物は長野県のとある木造メーカー(現在もあります)が当時、別荘建築や店舗建築向けに大々的に展開をしていたカナディアン レッドシダーを用いたドーム建築という事です。

高度成長期の勢いがあった時代を反映させたダイナミックな佇まいです。長野、岐阜、三重などの別荘地には必ず一軒はあると言っても過言ではない建築です。

*工事前の建物

構造的な面白さは、通常建物は梁間方向と桁行方向があり、この建物は桁行方向が壁と屋根と一体となった構造で、しかも鉄筋コンクリートのラーメン構造の高基礎の上に設けられ、その迫力というかオーラをとても感じました。

次に「痛みが多い」という部分は、当然49年を経て、しかもここ10年以上は使われてない建築ですので仕方がないと言えばそうですが、水回りは全てNG、電気配線も怪しい、床や屋根などの材料の劣化などで雨漏りもあり、建物もかなり歪んでいる状態です。

しかし、内装に使われているレッドシダーそのものは、とても綺麗な状態なのは、とても有り難く自然素材の良さを改めて感じました。

そんな状況でありながら、この建物をリノベーションをして新たな息吹を与えたいと思った理由は、その魅力的なロケーションです。

*工事前の建物(内装)

三重県志摩市浜島町。リアス式海岸特有の英虞湾の複雑な地形を眼下に見下ろせる高台の土地で、敷地から見える風景は山と海のみ。しかし、この古い建物は何故か、海に対して開口部がとても狭く、このロケーションを活かした造りになっていません。

まず最初の設計で検討した項目としては、梁間方向に最大限の開口部を設けれるのかでした。

屋根、壁からの圧縮や引張りなどのエネルギーがかかりますので、開口部を設けるにもある程度の補強が必要となります。それらを全てクリアさせて、大胆にも全面ガラスの計画を立案しました。

計画当初のスケッチと完成した建物では、何も変わっていません。この時点でこの建物のコンセプト、イメージ、工事内容をしっかり検討していましたので迷うことなく工事が進みました。

*計画時に描いたスケッチ(外装)

そして次に検討したのが素材の吟味です。延床面積でたったの18坪程度のコンパクトな建物なので、多くの種類の材料は必要ありません。その素材をセレクトするにあたり考慮したことが、この建物の本物のヴィンテージに負けない、いや 共存するような表情を持つ材料です。

最終的に選んだ素材は、1階はイタリア製のヴィンテージ感の強い磁器質タイル、壁面は既存のレッドシダーの塗装と、これまたヴィンテージ感のある不揃いなスライス煉瓦タイルです。

アクセント(床の段差や暖炉下の床)には錆びさせた鉄で設え、水回りは清潔感のあるベージュの磁器室タイルを張りました。寝室と書斎コーナーのある2階は絨毯(グリッパー工法)を張り、ヘッドボードとなる壁面は、眼下に広がる海の色と同じエメラルドグリーンでペイントしました。

*計画時に描いたスケッチ(内装)

キッチンは厨房機器を導入し、かなり本格的な調理ができるようにセレクトしました。5口のコンベクションオープン内蔵のガスコンロ、コールドテーブル、二層シンク、冷凍庫など、この面積の建物にしては立派すぎるキッチンです。

ここ志摩はリゾート観光地で、この近くにも有名な高級ホテルがいくつか存在します。ある意味それが理由なところもあります。

*工事中のファサード

*工事中のリビングの開口

*工事中の足場から見た英虞湾

頭の中に入っているホテルを羅列しますと、サミットの会場となった志摩観光ホテルやNEMUリゾート、AMANEMU、地中海村、都リゾーツベイサイドテラス、ばさら邸、HIRAMATSUなどなど、全国から志摩の美しい風景、穏やかな気候、そして美味しい料理を味わいに多くの旅行者がやってきます。

そのような方をお呼びしても大丈夫な要素を入れたということです。つまり、別荘としての利用と、貸別荘としての機能を建物にスペックインしたということです。ここで数日過ごされる方は、ホテルやレストランの出張シェフを呼んで、目の前で美味しい料理を召し上がっていただくことが可能となります。

この建物に滞在している間は、あまり移動をせず、ゆっくり時間を過ごしてもらえるよう、リビングには暖炉(薪ストーブ)を設置しました。炎越しに夕陽に染まる海を眺めながら静かに過ごすというイメージです。

*リビングのコーナーから見下ろす

*バルコニーから夕陽を眺める

*夕暮れ時にリビングで寛ぐ

最後に。この建物の設計と監理を通して感じたことは、設計の原点に戻るような話になりますが、「建築とロケーションの関係性の大事さ、融合性」をつくづく感じました。

日頃、注文住宅の設計監理を主な業務として遂行しており、設計打合せ=間取りや仕上げ、設備機器が主流になっていると思いますが、敷地のスペックを最大限に活かした間取り、(弊社の設計が斜め壁が多いのがその理由ですが)庭や風景の作り方など、その辺りからのアプローチがとても重要であると再認識をいたしました。

別荘建築、週末住宅などご興味のある方は、どうぞ気軽にお声かけください。等身大の夢を叶えましょう。

設計監理: アイシーエー・アソシエィツ一級建築士事務所

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