富山湾と大きな川(庄川)の両方を風景を眺められるこの敷地との出会いは強烈でした。見た瞬間、電流が体に流れると言うとオーバーな表現でしょうが、敷地の持つオーラとクライアント様の希望と、設計者である私のインスピレーションが見事に合致した出会いであったと振り返るとそう感じています。
医療関係のお仕事に就くオーナー様の家創りに対する希望は二つだけ。まずは、職場から車で30分程度の距離であること。次は仕事柄、救急車の音を聞くだけで気分が落ち着かないので、自然を感じる場所であること。
決して広くも無い間口約6メートルの変形地。しかも道路からかなり低いという設計上は有利とは思えない条件ばかりでしたが、それらのデメリットをメリットに変える方法を模索して行き着いた答えがこの住宅の基本コンセプトプランでした。
低い地盤に合わせて落ち着いた寝室を設け、その上に海を眺められるリビングを設ける。スキップした半階を降りると中庭に面したダイニングとキッチン。そのプライベート性の高い中庭に面して浴室やトイレを配置した、1LDK+収納というコンパクトな家です。
そして次に考えたのが素材感。ここ新湊は日本のベネチアと言われる街中に運河が張り巡らされた美しい街です。しかし、海に面するだけあって、どこの家も道も漁港独特の赤錆だらけ。それがこの土地の気候風土の厳しさを無言に物語っていました。
どんな建材をチョイスしてもその自然のパワーに勝てる訳がないと直感し、この土地だからこそ選んだ素材は、意図的に錆させた鉄と、既に風化されたベルギーから取り寄せた煉瓦。正面以外はガルバニウム鋼板の赤錆色で多い、新築住宅でありながら落ち着いた風貌としました。
内部に関しては、アプローチから玄関、ホール、ダイニング、キッチンと同じイタリア産タイルを連続的に張り、リビングは色を変えてマットな黒のタイル張り。当然ですがタイル部分に関しては全面的に床暖房を内蔵しました。
エタノール暖炉を壁に設置した寝室は絨毯敷きとし、ラグジャアリーな高級ホテル客室を意識したインテリアとしました。 浴室も在来工法で猫脚のバスタブと大理石張りの床と壁。水栓金物もクロームメッキされた、伝統的なクラシカルなデザインのものをチョイスし、不変の落ち着いた空間となるように意識した作りとなっています。
設備的な面では面白い仕掛けとしては、家中の天井に埋め込まれたスピーカーの存在。
スマートフォンなどの端末からBluetooth経由で音楽を飛ばし、家中に途切れる事なく音楽を奏でております。その音楽と同じような感覚で五感に刺激する存在として暖炉を2台設置しました。暖かい熱を発すると同時にゆらゆらの踊る炎はこの空間での過ごし方をより美しくエレガントにする大事なアイテムであります。海沿いのリビングのソファーに座りながら海と炎を眺めて音楽を聴く…
これまで想像も出来なかったこの生活が特にお気に入りとオーナー様。徐々にオーナー様のカラーに染まっていく空間と、庭中に沢山植えた植物の成長がとても楽しみです。
設計監理: アイシーエー・アソシエィツ一級建築士事務所(北陸) 撮影: 加納準