人生を変えたシマビト
夫、優作は市内の商社に勤めるサラリーマン。毎日、朝から夜中まで駆けずり回りながら慌ただしい業務をこなす日々を過ごしている。
海外との取引きの窓口が彼の担当という事もあってか、取引き相手の国がのんびりとランチを食べ終わった昼過ぎ、つまり日本時間だと21時ぐらいから頻繁に電話やメールが盛んになり、気がつけば夜中なんて当たり前の毎日が時差漬けのような生活だ。
10年前に同じ職場で、社長秘書をしていた男性社員憧れのマドンナの恵子さんと恋に落ち、出向先のイタリアで結婚式を挙げた。なんせ社長秘書と結婚する訳だから、男性社員はみんな口を揃えてこう言っていた。「これで彼の出世も終わった」と。しかし、意外にも社長は二人の結婚を大賛成し、今では事業部長というポジションを与えてもらって可愛がられている。奴は実力もあるが運も味方に付ける奴だと思った。
彼ら夫婦の間に愛里(あいり)ちゃんが産まれたのは彼らが日本に戻って直ぐだから、彼女は丁度9歳になる。どんどん女性らしくなり、嬉しいような寂しいような何となくスッキリしない心境を持ち始めたと、彼はよくランチを食べながら呟くように話しをしていた。その理由を尋ねたところ、父親として人生、いや生きる喜びを感じる何かを家族として共有できないかと悩んでいたからだ。