伊勢ハンドワークベースのはじまり

2016.06.05

伊勢ハンドワークベースのはじまり

2008年頃でしょうか。「シマビト」という企画(これは2006年ころからですが…)を毎年のように練っていた頃、僕は、仕事の合間の息抜きに、よくインターネットでの別荘検索を楽しんでおりました。当時から、2地域住居というフランスあたりで確立されつつあったライフスタイルに魅力を感じていたし、企画としても面白いと思っていたし、何しろ自分自身の憧れの暮らしのかたちでもあったので、結構真剣に取り組んでいました。森林売買のようなものまで閲覧していたことを思い出します。

インターネットで検索しているだけで、たくさんの物件情報があり、更地の土地や中古物件など、見ているだけで夢は膨らむし、実際にそれらの物件価格は驚きの安さだったので、結構具体的に夢を見ることができたのでした。そんな中、地面にへばりつくような建物の写真をもつ物件情報に出会いました。のちの伊勢ハンドワークベースとなるものです。

「ン!?これは?」と思いました。これは写真には写らないけれども、かなりの深みのある物件じゃないのかと、瞬間的に感じました。そうなったら、これは実際に見てみたくなるのは当然の流れ。買うとか、買わないとかそういうことではなく、単純に「見てみたい」と思ったんであろうと思い出しますが、心の中では「ほしい」という気持ちもあったんでしょうね。知らない不動産会社ではなかったので、さっそく電話し、アポイントを取り、見に行くことになりました。

このタイミングでは、僕一人で行きました。このタイミングで妻と同行するのは、持ち前の営業的直観で、ベストでないということに気が付いていたんだと思います。実際、本当に欲しくなり購入しようということになった場合、妻への説得が容易ではないことはあきらかだし、まだその段階でもなかったからでした。そして一人で行きました。

やなりというか、残念ながらというか、幸運にもというか、一目惚れでした。

まさに山の中にそれはあり、石積みがあり、道路からは屋根しか見えない。隣家はあるものの距離もあり存在感はない。かなりの築年数であることは間違いないけれども、無骨の中に品を感じたのは、そこが平家の落人の里であったからでしょうか。

室内も、そこここが傷んでいるものの、丁寧に生活されていたことは感じられ、米ぬかで磨きこまれた太い柱は石のように光っており、加えて、内部には囲炉裏があり、そして蔵があり、納屋があり、離れがあり、外には井戸があり、傍には水のきれいな小川が流れていました。

この場所は、自分の人生にとって、きっと特別な場所になるに違いない

そう直感しました。やはり、「欲しい」。こんな場所があれば、日々の日常生活では不可能なことが可能になるし、エスケープ感、タブーレス感にあふれたこれからの生活スタイルに、心に波風が立つのは、僕にとっては仕方がないこととしか思えません。

次の瞬間には、妻への説得方法への検討に、頭の中は移っていました。売値は480万円。交渉次第で450万円くらいなら、という不動産会社の言葉。名古屋の自宅までの約2時間、もし、その場所を所有したら…という希望にあふれた妄想と、妻への説得の仕方との二つのイメージが交互に頭によぎりながら、家路についたのでありました。(つづく)