6月末の現地実測から約2か月半。ついに志摩市「迫子の家」が完成しました。
以前にもご紹介いたしましたが、この建物は築49年の廃墟寸前の建物のリノベーションです。当時、カナダから輸入された規格型の家(カナディアンシダーハウス) で、壁と屋根が一体となったドーム形状の構造体です。
海に向かって聳えるように設けられたコンクリート擁壁の高台の土地に、静かに佇んでいる。いや悲しげな表情で誰かを待っているような、そんな印象を初めて見た時に感じました。
設計をスタートする上で、既存寸法や詳細の内容を調査しましが、その結果はとても酷く、建物が歪んでいる点、設備配管は全て使えないなど、計画する上で「問題」という名の高いハードルが幾度ともなく訪れてきました。
当初の予定では屋根をカバーリング工法でガルバリウム鋼板で新たに覆うような計画をしましたが、予算的な問題で防水に強いコールタール塗装を3度ほど塗りました。
外壁、内壁の木部は自然塗料のオスモにて仕上げ、床は既存の補強、補修などを行い、イタリア製のヴィンテージタイルを300角の寸法にもかかわらず馬目地(半分ずつづらして張る)としました。
海を見下ろす建物でありながら、何故か海側には小さな窓しかなく、大半は壁でした。それらを大胆に取り払い、補強も兼ねて新たに梁を架け、その梁をガラス枠とし、大きな開口部としました。
薪ストーブ背面はかなりの温度を持つので、ケイ酸カルシウム板の不燃板の下地に、これまたヴィンテージテイストの煉瓦タイルを無造作に張りました。
インテリアコーディネートの指針として、「既存空間が放つ空気の色に合うもの」それだけです。世の中には色々な材料、テクスチャー、マテリアルなど山ほどありますが、実際この空間に合うものだけをセレクトすると意外と少ないチョイスはとてもスムーズでした。
そして薪ストーブと同じぐらいに特徴的なのは、キッチンでは無く「厨房機器」を導入した点です。5口のコンロにコンベクションオーブンがついた本格的なものです。また冷蔵庫では無く、コールドテーブル(作業台の下が冷蔵庫)、二層シンクなど本格的な料理が提供出来る設備となっています。
弊社のリノベーションの基本的な思想として、「使えるものは改造してでも使う」ということ。この現場では解体で発生した木の板で玄関ドアを作ったり、既存の階段のササラ、踏み板を利用する前提でデザインし直したりと、新たに仕入れる建材を極力抑えています。
言葉ばかりで詳しい写真を見せろという声が聞こえてきそうですが、ちゃんとした完成写真を撮影した際にアップロードいたしますので、今暫くお待ち下さいね。
Before
After